経営コラム

下請け形態の製造業がはじめる自社製品開発

下請けの仕事と比べた自社製品のメリット

製造業の海外流出について、報道等で耳にするようになって久しいですが、なぜ海外に流出するのでしょう。ご承知の通りその理由は明白で、海外新興国の方が多くの場合、圧倒的低コストで製造できるからです。そして、この理由は下請けの仕事の海外流出の理由にもなっています。

中でも量産品対応の数量規模が大きい案件はコストメリットが大きくなるため、海外へ発注されやすい傾向にあります。国内製造業の方が、発注元から

「試作だけお願いしたいのですがいいですか?」

と尋ねられたという話も聞こえてきます。

そうなると、数量規模(≒売上規模)の大きい案件が出ていきやすいということになり、国内下請け企業の苦境は容易に想像できます。

こういった苦境に前向きに立ち向かう手段の一つとして、自社製品の開発について述べさせていただきます。下請けと比較して自社製品では

1. 業分野設定、製品コンセプト、設計等の主導権を自社が持てる
2. 較的付加価値を高くできる

といったメリットがあります。自社製品開発を行う国内製造業がこういったメリットを上手く活用して成功することが望まれます。

さて、そもそも下請けとはどういう仕事を指すのでしょうか。人によって見解が分かれると思いますが、ここでは”どのように製造するかの指示を図面等で発注元から受けて、その通りに作る仕事”としたいと思います。つまり設計は発注元が行い、その結果を受けて製造をするということです。

この定義ならば、最終製品の一部を構成する部品を納入する場合、設計を発注元が行い、その図面や製造方法の指示を受けて加工や製造をする場合は下請けの仕事となります。一方で、その部品が果たす機能を仕様(スペック)という形で発注元と約束し、その仕様を実現できるように自社内で設計、製造を行なう場合は下請けとはよびません。そして、後者の方が前者に比べて製品の主導権を握りやすく、付加価値も高めに設定できることは理解いただけると思います。

このコラムの読者の方は、いろいろなところで「他社と差別化しないといけない」と耳にタコができるほど聞かされているのではないでしょうか。国内製造業の場合、コスト勝負では海外新興国の企業に分があるので確かに差別化は必要でしょう。しかし、本当に重要なのはそれをどうやって実現するかです。下請け形態で主導権を発注元に握られた状況では、差別化で成功するのは不可能とは言いませんが、比較的難しいといえます。

例えば、国内下請け企業が高い技術で差別化して受注単価を上げようとしても、発注元は製造装置さえ導入すれば高い技術がなくともできるような設計にして、安く作れるようにしようとするでしょう。そうしないと発注元自身が他社とのコスト競争を戦えないのです。

自社製品であれば、自社が主導権を持っていますから、自社の高い技術を活かした製品設計を自由にすることができます。そもそも、進出する製品分野から自社で設定できるので、自社の強みを最大限活かせる分野とすることが可能なのです。

裏を返せば、自社製品を開発するのであれば、その製品分野はよくよく考えて自社の強みを活かせる分野にする必要があります。この点は単純なことですが開発開始後の製品、会社の命運を左右する非常に重要なポイントとなります。目先の引き合いや商談に引きずられて、あまり自社に優位性のない分野で自社製品開発をはじめるのはおすすめできません。主導権をもって主体的に動けることを最大限活用しない手はないのです。

ここまで自社製品開発のメリットを書いてきましたが、メリットばかりではありません。例えば下請けの仕事とは違った業務をこなす必要がでてくるという課題もあります。次項ではその課題について述べさせていただきます。

 

業務を外部に任せるか、自社の能力を鍛えるか

この項では自社製品を持つに際し、下請けの仕事とは違った業務をこなす必要がでてくるという課題について述べます。

下請け形態から自社製品を持つ場合、求められる業務の内容が異なってきます。

まず、下請けの場合には発注元が行っていた開発・設計を自社で行う必要が出てきます。仕様通りの性能を担保するための品質管理、品質保証も必要となってきますし、マーケティング・営業や外注・調達も下請け形態の時とは異なる業務となってくるでしょう。

では、これらのこれまで経験のない多くの業務について、開発をはじめるからといって、即座に全部自社でできるようになるかというと、当然そういう訳にはいきません。

こういった新たに必要となる業務を実現していくには大きく分けて二つの方針があります。1つは外部の力を活用すること、もう1つは自社内でできる能力を徐々に獲得していくことです。

外部の力の活用例で代表的なケースとして販売面での商社の活用が挙げられます。

商社でなくとも、販売網を有した他社にOEM供給することで開発した製品の販売を任せることも考えられるでしょう。そうすれば販売面で外部の力を活用できます。

販売以外では製品の一部について、部品として丸々外部から購入するといったことをすれば、設計や品質保証において外部の力を活用することができるでしょう。

一方、自社で能力を獲得していく方法の例としては、従来の下請け形態の仕事での顧客への改善提案が挙げられます。顧客が示してきた設計や作業手順について、

「こうすればもう少し安くできますがいかがですか?」
「こうしたら寸法ばらつきが小さくなりますがどうですか?」

といった提案をしていくのです。

提案に対して、顧客としては設計上成り立つかどうかや品質を担保できるかといった視点で検討するでしょうから、顧客と提案についてやりとりをするうちに、設計や品質保証に関する能力、ノウハウが徐々に蓄積されることになるでしょう。顧客は改善提案を歓迎するでしょうから(たとえ、最終的に採用されなくともです)、通常顧客からの信頼向上にも寄与します。

改善提案をどんどんすすめることで、受託している工程については発注元からも頼られるほどの技術力を獲得し、それを基礎にいよいよ自社製品を手がけることを検討されている会社もあると聞いています。改善提案は従来の下請け形態業務の発展にもつながる、まさに一石二鳥のおすすめの方法です。

改善提案の他には、下請けの受注の内、一部については設計も含めて受託させてもらうといったことや、支給部材を自社購入させてもらう等の試みも自社製品開発で必要な力を鍛えることにつながります。

外部の活用か、自社での能力獲得か、二つの方針のいずれを採用するかはそれぞれの業務で良く考えて判断していかねばなりません。自社の強みを活かして伸ばせる部分や、他社品と差別化していきたい箇所は、外部に任せず自社でやるという判断になることが多いでしょうし、一方であまり重要でない上に自社が不得意な部分は外部に任せる業務の有力候補となります。いずれにしても中長期的な視点で、戦略的な判断が必要です。

次項では開発という未来に対する不確定さが伴う業務の特徴と注意点について述べさせていただきます。
未来に対する不確定さがともなう開発という業務

製品開発という業務には、通常の量産品の生産や下請け形態での業務とは異なる点があります。上手に製品開発をすすめるにはその特徴を理解し、注意して業務をすすめる必要があります。

その特徴とは一言でいうと、
「業務に対する成果が未来のことで不確定である」
ことです。

開発業務は労力や費用を費やしている間は、売上は上がらず、開発が完了して製品が売れればようやく売上という成果が上がります。量産品の生産や下請け形態の仕事では、受注時点においてすでに納品すれば売上が上がることは決まっていますし、製造に労力や費用を費やしてから売上が上がるまでの期間も通常、開発に要する期間ほど長期とはなりません。

開発している間は多くの場合、成果としての売上はまだ不確定なため、もし開発が途中で中止となったり、完成品が売れなかったりすれば売上は上がらず、費やした労力と費用が損失として残るだけになってしまいます。そこで、とにかく売上が上がるように開発することが大切となってきます。

そして、それには「開発してから売る」という姿勢ではなく、「売れるように開発をする」ことをお勧めします。これは開発時から顧客候補とやりとりするなどして、買ってもらえる製品に仕上がるように開発を進めていくということです。開発完了したものをなんとかして売ろうというアプローチではないところに注意してください。

開発の担当者(社長の場合もあるでしょう)自身が顧客候補との打ち合わせで買ってもらえる製品とはどのようなものかを明らかにして、それをターゲットとして開発をすすめるなどしても良いと思います。

さらには開発に投じる労力や費用が未来の売上にどの程度結びつきそうかを考えて業務をすすめることが大切です。売上に結びつきそうにない開発費は抑制し、まだ売上につながるかどうかわからない場合は極力お金を使うかどうかの意思決定タイミングを遅らせましょう。さらに言えば売上になることがわかっても、必要以上に早い投資は避けるのが望ましいと言えます。

この話題は、全くお金や労力を使わないと開発が進まないので使わなければ使わないほどいいという訳ではないところが難しいのですが、少なくとも売上との結びつきを意識することは必要です。売れるには売れたが開発費を使いすぎて売上の方が小さかったなどとならないように注意してください。

関連して、開発品の価格設定でも注意が必要です。よく下請け形態での仕事と同様に粗利を主な指標として価格設定されていることがありますが、開発した製品はその売上で過去に投じた開発費をまかない、それでなお利益が出ている必要があります。開発した製品が会社にとってトータルで儲けにつながらないと、苦労して開発する意味がありませんので、価格設定にあたってはこのことを忘れないようにしてください。

また、開発にかかる期間はできるだけ短くしましょう。開発を担当する人員には人件費がかかります。ズルズルと開発が長引くと、その期間の開発担当人件費のため、開発に要した費用が膨らむということはよく聞く失敗例です。また、素早く開発できないと、市場で売れるタイミングを逸してしまうという別の問題もあります。開発は早くすすめるにこしたことはありません。

以上、下請け形態の製造業がはじめる自社製品開発について述べてきました。限られた文字数のため、開発管理や生産準備、技術者の育成等、ここで触れられなかった自社製品関発に関係するトピックも多くありますが、少しでも皆様のお役に立つことができれば幸いです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。経営に関するアドバイス、支援等が必要でしたら、さまざまな専門分野の中小企業診断士が所属する大阪中小企業診断士会へのご相談を検討いただければ幸いです。

担当メンバー名:島田 尚往(中小企業診断士 アカシベテクノロジーコンサルティング 代表)

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