経営コラム

人生はひとり旅みたいだ

経営者も従業員もみんな「ひとり旅」をしている。

ひとり旅と日本

日本は極東の小さな島国だが、観光資源には恵まれている。日本地図を見るとそれが分かるだろう、細くて長い地形が多様性を生み出す源泉になっている。地域によって気候や文化が全く異なり、その個性は先端に行くほど顕著になっていく。

北海道の大地は広大で、カレンダーから切り取られたような景色が延々と続き、日本でない錯覚を覚える。長崎の五島列島では、定刻を知らせる讃美歌が町に流れ、地域に根づくキリスト教文化を知ることができる。

旅をすれば、知らない土地・文化・人を知ることができる。特にひとり旅がそうだ。誰かと共にする旅は共有体験を得る旅になるが、ひとり旅は言葉もなく、感じる旅になる。だから、旅のインパクトが強くなる。

日本で買い物をする外国人観光客が増えたことで「観光=買い物」のイメージが強くなっているが、買い物は旅の一部に過ぎない。

非日常の買い物を楽しむ観光も旅であるが、
非日常の人生を楽しむ旅行も旅である。

日本の観光資源と旅の本質はもう一度考える必要があるだろう。

旅先での経営者との出会い

宇和島(愛媛県)の高台にある公園から、町の夜景を見ていた。隣には同じ宿に泊まる青年がいた。話をしてみると、彼が起業家だと分かった。

学生の時に高性能な電気製品の製造・販売を志し、設計図を持って日本の大手電機メーカーを全て回った。しかしその品質は作れないと全ての企業から断られた。その後、海外にその性能を満たす製品があることを知り、独占販売契約を結んだ。輸入を始め、流通網を開拓し、小売店に卸しているという。会社は二人だけだから、旅の間は相方が一人で会社を運営しているという。

ひとり旅は、スケジュールを自分で決めて進まなければならない。その時の情報や状況で予定を変更することも多い。それは企業経営にも共通すると思う。

ひとり旅では、大企業の経営者との出会いは少ないが、小規模な経営をしている人との出会いは多い。彼らに共通していることがある。それは「なぜこの仕事をしているか」が明確に語れるということだ。自分で選択した人生を歩んでいる。

経営者にとっての非日常のインパクト(必要性)

脳科学者の茂木健一郎によると、人間の脳は、新しいものに出会うことでドーパミン(やる気、喜びをもたらす物質)が放出されるという。だからこそ、食べたことのないものを食べ、見たことのない景色を見て、出会ったことのない人たちに出会うことが大切になる。

同じ日々を繰り返していると、次第に客観視が出来なくなっていく。今やっていることは、決まったことを繰り返す「作業」なのか、それとも新たな価値を創造する「仕事」なのか。

自分の力で上を目指しているつもりでも、春風に乗って勢いよく舞うサクラの花びらのように、本当は落下していることに気づいてないのかも知れない。

非日常の不慣れな状態(アウェー)に身を置くことは脳を活性化してくれる。そして新たな発見は、視野を広げて選択肢を増やしてくれる。ただし、非日常は求めなければ得られない。

ひとり旅のトラブル

日常は同じことの繰り返しになりがちだが、予定を決めない旅は非日常で、想定外の出来事が発生しやすい。道に迷うこともあるし、夜になっても宿がない時もある。目的地にたどり着けず、予定を変更することや、天候次第で行先を変えることもある。

英会話ができなくても、予定を立てない海外のひとり旅はできる。現地の空港に降り立った時は宿も決めていないので途方に暮れる。まるで迷子だ。しかし、自分で迷子センターに行くわけにもいかず、ひとまず宿探しから始めることになる。初日は現地の人とコミュニケーションが取れず、どうしたらいいか分からなくて不安になるが、数日後には拙い英語力でも現地の人とコミュニケーションがとれるようになっている。慣れというのは不思議なものだ。
ひとり旅は様々なトラブルが起きるが、そのトラブルも日常だと思えるようになっていく。

選択肢は無数

タイのバンコクを旅している時に、路線バスに乗ろうと思った。しかし、幹線道路には出たもののバス停の位置が分からない。最寄りのバス停を探さなくてはいけない。それは道路に沿って右へ進むか、左へ進むかの2択である。

よりベストな選択は何か?

目の前の交差点は交通量が多いため、ここを通過する車両は必ず一度は赤信号で停止している。それなら、ここで路線バスをヒッチハイクすればいいと考えた。

停止したバスに近付きドアを叩くが、運転手は首を横に振ってドアを開けない。確かにそうだろう、タイにはドアを叩いて路線バスに乗り込む文化はない。ではどうすればいいかを考える。

よりベストな選択は何か?

もう一度やることだ。次のバスを待って、もう一度やってみる。今度は「どこへ行くんだ?」と聞かれた。「空港だ」と答えるとドアが開いて乗ることができた。あきらめないことも選択である。

マニュアルに沿った行動は効率的だが、それがベストだとは限らない。ましてや、マニュアルが使えない時は、自分で考えて、決断して、行動しないといけない。
選択肢が無数であるという考えは、経験によって身につけることができる。

成果を生む行動特性と鍛え方

4月は新入社員の季節だ。新人に歓迎会の幹事を任せる会社も多いが、これは作業を任せるだけではない。新人が社内の人を知り、自分を知ってもらう目的がある。しかし、もっと大切な目的がある。それは慣れない仕事をやることによって、本人の能力を成長させることである。

経験から得られる能力には、知識や技術だけでなく、行動特性(=コンピテンシー)がある。行動特性とは「成果を生み出す考え方や行動」であり、「あいつに任せたら何とかしてくれる」と期待させる力である。行動特性の要素は、「状況を正確に把握する論理性」「あきらめない粘り強さ」「人の話を聴く姿勢」「周りを巻き込む行動やエネルギー」などがある。行動特性は知識ではないから座学で身に付けるものではない。鍛えるために最も手っ取り早い方法は「初めてのことに、トコトンチャレンジする」ことである。

同じ作業を繰り返すことは、熟練した技術を身に付けることができるが、初めてことに取り組むことは、行動特性を鍛えることができる。

経験が豊富な人物や修羅場を潜り抜けてきた人物が強いのも、理由の一つとして行動特性が鍛えられていることがある。

社長の孤独な時間

旅先では好天に恵まれるに越したことはないが、ひとり旅での雨は記憶を強める効果があるのでそれも楽しめばいい。コーヒーを飲みながら雨宿りで過ごす時間は、日常のコーヒーブレイクと違って何もなく、それが自分を見つめ直す時間になっているのだと思う。

大阪で金属加工業を営む社長が経営上の決断をするのはいつも金曜日だった。社長は兵庫県の山中にある自社工場を視察した帰りは、必ず高速道路を一人で運転していた。その時だけは、音楽もラジオも消して車内を静かにするのが習慣だった。それが毎週金曜日である。週に1度、誰にも邪魔されない孤独な時間である。会社の重要な課題は必ずその時に決断されていた。

孤独な時間は内奥を深く見つめ直す時間になる。一人の人間を社長に育てるには孤独な時間が必要なのだろう。

経営はひとり旅みたいだ

ひとり旅では、雨でずぶ濡れになることもあるし、夜の山中で大きく道を間違えたことに気づいて途方に暮れることもある。思慮が足りず初対面の人に注意を受けることもあるし、カッコ悪いことだって何度もある。それでもひとり旅は楽しい。特に予定を決めないひとり旅は、その時の気持ちで行きたいところを決めて進む楽しさがある。

予定を決めて出発する旅行は、先に最適な計画があり「理論」である。
予定を決めないひとり旅では、次の行先を決めるのは「感情」である。

計画(理論)は必要だが、それだけで上手くいくとは考えない方がいい。経営の核には経営理念があり、これは「どうなりたいか、何をしたいか」という心から湧き出るものである。理屈で考えた経営理念はつまらない。感情が入らなければ、本当に良い経営はできない。
感情を核にして、理論を構築していく。そうでなければ楽しくならない。経営もひとり旅も同じだ。

経営と決断

ひとり旅の楽しさは予期せぬ出会いにある。それは人かもしれないし、景色や文化や経験かもしれない。そのためには宿選びが重要だ。

昔は「ユースホステル」が若者のひとり旅の定番だった。禁酒・禁煙が当たり前で、夕食後は全員を集めて「ミーティング」が開催される。しかも強制だ。今の時代なら面倒くさくって仕方がない。

今でもひとり旅の定番の宿は「ユースホステル」である。ただし、ミーティングはなく、夜は宴会だ。気ままにひとり旅を楽しむ陽気な人が集まるので、一緒に飲んで話している時間がひとり旅の楽しみになっている。

すべてのユースホステルには個性がある。ビール好きなら長野県安曇野市のユースホステルがいい。BOSEの大型スピーカーでクラシックを聞きながら世界中のビールが飲める。なぜそんなユースホステルになったのか?宿のオーナーがビール好きで、やりたいことをしているからだ。

ユースホステルは大きく変わったが、顧客のニーズも大きく変わった。
変わらないのは、今でもひとり旅を楽しくしてくれるユースホステルの存在であり、理念である。
そして、ひとり旅を楽しみたい顧客がいることも変わらない。

変化は怖いものであるが、自分が変わらなくても環境が変わっていく。
立場を変えたくないなら環境に合わせた変化が必要であり、何を変えて、何を変えないかの決断が重要である。残すべきものが明確なら、変化は楽しめる。

人生はひとり旅みたいだ

これまで、国内外で予定を決めずにひとり旅を100泊以上してきた。行ってみないと分からないことが沢山あるし、何より、日常と違う空間に身を置くことは慣れてくると楽しめる。

これまで、異業種への転身に3度踏み出した。最初は商社の営業からIT企業の技術者に転職し、次に、メーカーの経営管理(経理を含む全社統制)に転職した。見えない世界への一歩は計画的とは言えないが、世界は確実に広がった。

最後は仕事の当てもなく会社組織から独立した。
当てもなく一歩を踏み出して、新たな人と出会って情報とモノを集めて次の目的地に進む。そんな選択も人生だと思う。

人生はひとり旅みたいだ。

困難な場面に遭遇することもあるし、自分一人でどうしていいか分からない状況もある。 他人から受ける心遣いに感謝することもあるし、初めての経験に感動することもある。 止まらずに進むほど、得られるものは増えていく。

担当メンバー名:吉田喜彦 (日本で一番ひとり旅を語れる中小企業診断士)

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