経営コラム

中小企業が実践できる人的資本経営とは

はじめに
昨今、人的資本経営の文言を目にする機会が増えてきました。日頃、経営に携わっている皆様も目にされているのかと思います。それでも、人的資本経営って何?自社で本当にできるの?と考える経営者も多いのが実態です。そこで本コラムでは、中小企業のための人的資本経営についてわかりやすく解説します。

無形資産が生む価値の変遷

人的資本経営とは、資源としての人材に投資を行い、最大限の価値を引き出して企業価値の向上を実現することです。

今までの経営では、人的資本への投資についてはほとんどの企業が後回しにして、物的資本に多くの投資をしてきました。投資効果が見えにくい無形資産に投資するよりも、有形資産に投資したほうが、投資効果がわかりやすかったことが理由として挙げられます。

このように以前は、有形資産が企業の成長に貢献していると考えられていたのですが、最近では無形資産が企業の成長に大きく関わっているということが分かりました。

米国S&P500社の時価総額のうち、無形資産が生んだ価値は43年間で17%から84%に増加したといった調査もあります。

出典:2019 intangible asset financial statement impact comparison reportをもとに作成

無形資産とは、実態の存在しない資産のことです。特許、商標権、著作権などの知的資産、技術や能力などの人的資産などを指します。中でもここでいう人的資産、つまり人的資本が一番重要であるといわれています。

成長企業、優良企業は、人的資本に手厚く投資しているということがわかり、投資家は、従来の指標にくわえて、企業の人的資本を調査・分析し、それをもとに投資の判断を行うようになりました。

またESG投資、ダイバシティなどといった社会情勢の変化も人的資本に注目を集めている要因です。

人的資本情報開示の義務化

2023年3月以降に決算を迎える上場企業を対象に、有価証券にて人的資本情報開示の義務化が始まりました。今、多くの上場企業では対応に追われています。

人的資本情報とは、財務情報に現れない企業のヒトに対してのあらゆる数値のことです。例えば、採用にかかる費用、離職率、リーダーシップ、エンゲージメントなどがあります。人的資本情報を開示するためのガイドラインとして定められたのが、ISO30414です。日本国内ではまだまだ浸透していませんが、2023年3月現在では3社の認証取得が実現されています。

ISO30414は11の指標と58の項目で設計され、指標ごとに計算式が定められています。それに基づいて人的資本情報をまとめることで、企業の人的資本情報が明らかになります。日本でも、2022年8月に『人的資本可視化指針』が発表され、これに基づいて情報開示を行うことを推奨しています。

◆人的資本可視化指針(7指標19項目)

前述したとおり、令和の時代、企業成長の起爆剤となるのは人的資本です。人的資本への投資は欠かすことができない重要なものとなるでしょう。

今後は、投資家のみではなく、採用にも大きく影響があると考えます。つまり、人的資本が充実していない企業には、新卒はもとより、中途でも採用が難しくなります。

非上場企業は情報開示の義務はありませんが、人的資本を分析して、自社の人事戦略を見つめ直すことが必要です。

中小企業のための人的資本経営

人的資本情報は、無形資産を見える化したものです。単にこれらを整理したところでまったく意味をなしません。これらの情報を有効活用することが求められます。

まずすべきことは、上記の人的資本可視化指針をもとにして整理することです。そのうえで、項目の中で何が自社の成長に貢献しているのかを把握することです。たとえば、我が社においてリーダーシップが強いほど業績が上がっている、などです。

この人的資本情報を公開すべきかどうかは各社の判断によって異なります。現在の採用サイトにおいても、多くの企業ではすでに離職率や平均年収、平均年齢などを公開しているので、そのイメージで結構です。悪い数値であれば、社内で共有し、改善に活用するようにするなどもよいでしょう。

活用方法としては、まず改善のための目標を定めることです。項目を取り上げて、目標数値を設定します。そのためのアクションプランを考えて実行することでも、人的資本経営と呼ぶことができます。

取り上げる項目は様々な考えがありますが、その方向性は大きく2つです。「より良くするか」、「良くない状況を改善するか」です。実効性が高く、効果が見えやすいのは、より良くすることです。

改善のための基準として、過去の自社の数値と比較する、そして客観的な比較ができることが望ましいです。可能な範囲で、業界平均などの数値を集めて比較しましょう。

過去と外部と数値を比較することで、自社の強みと改善点が浮かび上がってきます。たとえば、自社の教育費用が他社平均よりも低い場合には、教育に投資を行って従業員のレベルを向上させるなどです。

何から取り組めばよいかわからない場合には、まずはエンゲージメントサーベイを行うことをおすすめします。調査項目をしっかりと吟味することで、多くの良い点、改善点が浮かび上がります。

エンゲージメントを高めるためのアクションを実践することも大変重要なことです。従業員のエンゲージメントを高めることで、自社に対しての貢献度合いを高め、それが業績向上につながります。

またコンプライアンスは、意識的に改善をする必要があります。時代が進むにつれ、過去の当たり前は通用してくなってきており、特にコンプライアンスは大きく変化してきました。毎年定期的に、研修などで知識強化をすることが必要です。

まとめ

人的資本経営の答えは、ヒトに関することに投資を重点的に行い、企業および個人の行動変革を実現することです。経営環境が変わるのであれば、企業も個人も変わらなければいけません。

これまで多くの企業では、人事部門だけが人事について考えてきました。今後は経営者と従業員が一丸となり、人的資本について改善を図り、企業価値や業績の向上を実現していく必要があります。

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