経営コラム

「攻め」と「守り」で考える脱炭素経営入門

はじめに

 1992年の地球環境サミットで各国が気候変動枠組み条約に署名してから30年が経過しました。パリ協定とグラスゴー合意を経て、いま世界は産業革命前からの平均気温上昇を1.5℃以内に抑えることを共通目標としており、そのために必要な2050年カーボンニュートラルが合言葉になっています。
気候変動はビジネスの基盤を揺るがすとの危機感から、気候関連情報の開示を求めるTCFD、1.5℃目標と整合する温室効果ガス削減シナリオの策定を求めるSBT、再エネ100%導入を目指すRE100など、国際的な排出削減の取り組みに賛同する企業も増加しています。
気候変動がもたらすビジネス上のリスクとチャンスを経営課題の中心に据える脱炭素経営は、現代の企業にとって避けては通れません。

「守り」の脱炭素経営

 今後、消費者の変化や取引先からの要請により、温室効果ガス排出削減は事実上の義務となります。
 例えば、温室効果ガス排出量を算定するための国際的な規準であるGHGプロトコルでは、自社の排出量をスコープ1・2、サプライチェーンの上流・下流での排出をスコープ3と定義しています。中小企業のスコープ1・2排出量は、取引先にとってのスコープ3排出量になります。スコープ3排出量の削減についてSBT認証を取得した日本企業も増加しています。SBT認証を取得した取引先があれば、直接的に温室効果ガス排出量の報告と削減が求められます。この要請にこたえられない企業は最終的には淘汰されます。そうならないよう、社会と取引先からの排出削減の要請に「遅れることなく」応えるのが「守り」の脱炭素経営です。

図 スコープ1・2・3の概略
出典:環境省「サプライチェーン排出量 概要資料」

「守り」の脱炭素経営においてやるべきことは以下の5点です。
①自社およびサプライチェーンの排出量の見える化
②短期及び中長期の排出削減計画の策定
③自社の生産設備や業務のプロセスの見直しによる省エネの推進
④省エネによって減少した電気使用の再生可能エネルギーへの置き換え
⑤なお残る排出量に対するカーボンオフセット(削減量の購入)
 まずは①の「見える化」に取り組んでみましょう。自社で実施する場合には、日本商工会議所が提供しているCO2チェックシートの使用をお勧めします(https://eco.jcci.or.jp/checksheet)。外部に依頼する場合には、「アスエネ」などのクラウドサービスが比較的安価に利用可能です。「見える化」の結果をもとに、②の計画を策定し、具体的な取り組みを進めていってください。

「攻め」の脱炭素経営

 では「攻め」の脱炭素経営とは何でしょうか。
1つは上記のような排出削減の取り組みを同業他社に「先んじて」行うことで、競争優位を築くことです。この優位性には、取引先や社会に対する先進性のアピール、生産効率の向上、省エネ推進による生産コスト削減、などが含まれます。
 2つめは、社会全体が脱炭素にシフトする中で、また気候変動による被害の軽減に取り組む中で生じる新たな市場やニーズに反応し、早期に参入することで、新たなビジネスチャンスを掴むことです。
例えば、太陽光発電に限って見ても、ペロブスカイト型などパネル自体の技術革新もさることながら、太陽光パネル用の架台製造やパネル清掃用のロボット開発、大量廃棄に備えてのパネルリサイクルなど、新たな市場が生まれています。
 従来型の産業でもチャンスはあります。例えば印刷会社の光陽社は、自社サービスとしてCO2排出量を算定しオフセットの利用で実質ゼロにできる「環境配慮型プリント」を提供するとともに、日本サステナブル印刷協会を立ち上げ、同業他社とともに「ゼロカーボンプリント」工場の認定やカーボンニュートラル化した印刷物への認証など、業界全体の脱炭素化に取り組んでおり、ペーパーレス化が進む中でも業績を維持しています。認証を武器に展示会等に積極的に出展し、業績を上げている協会加盟企業もあるとのことです。

図 日本サステナブル印刷協会の認証マーク

 「攻め」の脱炭素経営への挑戦は、企業文化を前向きに変え、新たな成長の機会となるものです。ぜひ脱炭素をリスクとコストの面だけでとらえるのではなく、チャンスと投資の機会だととらえ、脱炭素経営に取り組んでいただきたいと思います。

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