経営コラム

外国人材時代の現場マネジメント ― “伝わる指示”で生産性と安全を高める ―

はじめに

初めまして。中小企業診断士の村口智子と申します。
現在、企業の現場改善支援を行うとともに、日本語教師として外国人材への教育にも携わっております。近年、多くの企業で外国人材の受け入れが進む一方、現場では外国人従業員とのコミュニケーションに起因する業務ミスや認識のズレ、さらには職場の雰囲気の悪化や定着率の低下といった課題も顕在化しています。
これらの課題は、単なる日本語能力の問題ではなく、「どのように伝えるか」という企業側のコミュニケーション設計にも大きく関係しています。
本コラムでは、外国人材が活躍する時代に求められる「伝わる指示」を軸に、現場改善につながる具体的な考え方についてお伝えします。

厚生労働省によると、日本で働く外国人労働者は約257万人と過去最多を更新しています。製造業、建設業、介護、サービス業など、多くの企業において外国人従業員の存在はすでに一般的なものとなりました。

中小企業の支援先でも、外国人従業員やアルバイトが働く現場は珍しくありません。また私たちの日常生活においても、スーパーやコンビニのレジ、レストランのスタッフなど、身近なところで海外の人々と接する機会が増えているのではないでしょうか。

一方、企業の現場では外国人従業員について次のような声をよく耳にします。

  • 「分かったと言うが、実際には理解していない」
  • 「期限どおりに作業が終わらない」
  • 「指示の意図が伝わらず、叱責や誤解が生じている」

こうした問題は、業務ミスや事故リスクの増加、さらには職場雰囲気の悪化による従業員の定着率低下にもつながり、企業にとっては重要な経営課題です。

かつては「外国人対応=英語」という考え方もありましたが、現在はベトナム、ネパール、フィリピン、インドネシアなど、多国籍の人材が働く時代です。英語だけでは対応できない現場も増えています。

では、多国籍環境の中で企業はどのように外国人従業員とのコミュニケーションを設計すればよいのでしょうか。

出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)


現場で起きているコミュニケーション課題

外国人従業員とのコミュニケーションで起こる問題の多くは、日本語能力の不足だけではありません。

むしろ、日本語特有のコミュニケーションスタイルに原因があります。
例えば次のような表現です。

  • あいまいな表現
    「あとでやっておいて」
  • 二重否定
    「できないことはない」
  • 主語や目的語の省略
    「それ、やっといて」(指示対象が不明確)
  • 空気を読む前提の指示
    「今ちょっと忙しいんだけど…(対応できない)」

日本人同士であれば文脈から意味を補完できますが、日本語を第二言語として学んでいる外国人にとっては、必要な情報が不足してしまいます。

その結果、誤解や認識のズレが生じ、業務ミスや手戻りの原因となります。
つまり問題は、日本語能力ではなく「伝え方」にあると言えるでしょう。


解決策としての「やさしい日本語」

こうした課題への有効な手段の一つが「やさしい日本語」です。

やさしい日本語とは、相手に合わせて誰にでも分かりやすく伝える日本語のことです。

1995年の阪神淡路大震災の際、避難情報を理解できない外国人が多かったことをきっかけに生まれた取り組みで、現在では行政や医療、教育などさまざまな分野で活用が広がっています。

また近年では、多国籍企業においても、言語戦略として導入されています。
たとえば株式会社メルカリでは、社内コミュニケーションの質を高めるため、「やさしい日本語」や「やさしい英語」の考え方を取り入れています。
同社の取り組みについては、次のように述べられています。

“「言語」は組織パフォーマンスを左右する「インフラ」です。”

『組織文化をつくる言語戦略』三修社 著者:親松雅代

このように、言語は単なるコミュニケーション手段ではなく、組織運営の基盤として位置づけられており、認識のズレや情報伝達ミスを減らすことで、組織全体のパフォーマンス向上につながる重要な要素といえます。


今日から現場で実践できる3つの原則

やさしい日本語を実践する際のポイントとして、「はさみの法則」と呼ばれる三つの原則があります。

それは、
「はっきり」「さいごまで」「みじかく」 の3つです。

① はっきり(あいまいにしない)
指示内容や期限、数量などを具体的に伝えます。

例:
×「できるだけ早くやってください」
〇「この作業は、今日の15時までに終わらせてください」

② さいごまで(言葉を濁さない)
遠回しな表現やあいまいな言い方を避け、意図を最後まで明確に伝えます。

例:
×「今ちょっと忙しいんだけど…」
〇「今は対応できません。30分後にお願いします」

③ みじかく(シンプルに伝える)
一文を短くし、複数の動作を分けて伝えます。

例:
×「この部品をセットしてボタンを押して、終わったら確認してください」
〇「この部品をセットします。ボタンを押します。終わったら確認します。」

これらの原則を意識することで、指示内容が正確に伝わり、誤解や認識のズレを防ぐことができます。
その結果、業務ミスや手戻りの削減につながり、業務効率の向上や円滑なコミュニケーションの実現が期待できます。

また、これらは外国人従業員に限らず、日本人にとっても分かりやすいコミュニケーションであり、誰にとっても働きやすい職場環境づくりにつながります。


経営的効果

「伝わる指示」を設計することは、外国人従業員のためだけの取り組みではありません。組織全体の生産性や安全性、さらには人材の定着にも影響を与える、重要な経営施策といえます。

具体的には、次のような効果が期待できます。

  • 作業ミスの削減
  • 労働災害の防止
  • 手戻りの削減
  • 従業員の定着率向上
  • 心理的安全性の向上

特に製造業や建設業、介護現場などでは、作業手順や危険情報、ケア内容が正確に伝わらないことが、事故やトラブルにつながる可能性があります。

例えば、

  • 危険箇所の説明
  • 作業手順や順序
  • 機械の停止手順
  • 保護具の着用方法
  • 利用者のケア方法や注意点

といった指示が曖昧な場合、理解不足が重大なリスクを招きます。

一方で、指示を具体化し、短く整理して伝え、相手の理解を確認することにより、認識のズレを防ぎ、安全性や業務品質の向上につなげることができます。

このように、言語の設計は、現場の安全性や業務品質を高めるための重要な経営施策といえます。


中小企業診断士としての支援可能性

これまで見てきたように、外国人従業員とのコミュニケーションの課題は、単なる語学力の問題ではなく、「伝え方」や「言語設計」の問題といえます。

こうした課題に対し、中小企業診断士は、現場の実態を踏まえながら、実行可能な仕組みづくりを支援することが可能です。

具体的には、次のような取り組みが考えられます。

  • 作業手順書の整備(やさしい日本語化、漢字へのルビ付与など)
  • 指示・報告のルール設計(報連相の標準化)
  • 外国人従業員向け研修および受入企業側の研修(やさしい日本語、異文化理解)
  • 現場における言語ルールの明確化(あいまい表現の排除、統一表現の設定)

これらは一見すると小さな改善に見えますが、継続的に取り組むことで、現場の生産性向上や安全性の確保、さらには人材の定着率向上といった経営効果につながります。

外国人材は、単なる人手不足対策ではなく、人材戦略の一環として捉える必要があります。今後、外国人材の雇用がますます進む中で、「伝わる言語環境」を整備することは、企業の競争力を高める重要な視点の一つとなるでしょう。


おわりに

外国人従業員への対応は、特別な取り組みではありません。
指示や情報を分かりやすく整理して伝えることは、すべての従業員にとって働きやすい職場環境づくりにつながります。

作業内容や手順、期限を明確に伝えることは、業務の効率化だけでなく、作業ミスの防止や安全性の向上にも寄与します。
特に外国人材の雇用が進む現場においては、コミュニケーションのあり方そのものが、重要なマネジメント課題となっています。

外国人材の活躍が広がる時代においては、言語や文化の違いを前提とした職場づくりが求められます。
その視点を取り入れることが、企業の組織力向上や持続的な成長につながるのではないでしょうか。

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