経営コラム

物価高・賃金高・採用難に対応した経営計画の立て方について

はじめに

いま日本の中小企業は、物価高・賃金高・採用難の三重苦に直面しています。

物価高について

物価高の背景と現状

世界的要因として、①原油・天然ガスなどエネルギー価格の高騰②ウクライナ情勢などによる物流・資源供給の混乱 ③アメリカや欧州の金利政策などの世界的なインフレ圧力。
国内の要因として、①円安による輸入コストの増大 ②人件費や物流費の上昇分を価格に転嫁③国内消費の底堅さによる価格受容性の変化
などがあげられます。

日本の物価動向としましては、は2020年を100とした2024年の企業物価指数122.6 消費者物価指数 108.5となっています。
2023 年以降、食品・日用品の値上げが相次ぎ、生活コスト上昇が顕著となっております。


出所:日本銀行のデータより作成

中小企業への影響

中小企業への主な影響として下記の3つがあげられます。

  1. コストの増加
    原材料・資材費が上昇し、特に製造業や建設業では直接的に利益を圧迫している
    エネルギー費(電気・ガス・燃料)の高騰が固定費を押し上げている
  2. 価格転嫁の難しさ
    大企業と比べて取引交渉力が弱く、仕入れ価格上昇を販売価格に反映できない
    BtoB 取引で「⾧期固定契約」の場合、短期的な価格見直しが困難
  3. 消費者行動の変化
    家計への負担増により「節約志向」が強まり商品が売れない
    安価な代替品や競合商品へのシフトが進み値下げを余儀なくされる

賃金高について

賃金高の背景と現状

賃金高の主な背景は下記の3つです。

  1. 政策的な最低賃金引き上げ
    物価高と並行して「持続的な賃上げ」が政策的に強く求められ,「2030 年代半ばまでに最低賃金を全国平均 1,500 円へ」という目標を掲げています。
  2. 労働人口減少
    少子高齢化により生産年齢人口(15~64 歳)は減少傾向する中、企業間で人材の奪い合いが激化し、人件費が上昇している
  3. 大企業との格差是正
    大企業は賃上げや賞与増額を実施し、中小企業も人材確保のために、給与水準を引き上げざるを得なくなっている。


出所:厚生労働省(地域別最低賃金の全国一覧)、ならびに厚生労働省(地域別最低賃金に関するデータ(時間額))

賃金高の現状

直近の春闘では、大手製造業を中心に 30 年ぶりの高水準の賃上げ が実施されました。その影響もあり、中小企業も「人材が集まらない」ことから給与改善に踏み切るケースが増加しています。

中小企業への影響

中小企業への主な影響として下記の3つがあげられます。

  1. 利益率の圧迫
    売上が横ばいでも人件費が上昇し、営業利益率が縮小しています。
    その影響で資金繰り悪化の要因にもなっています。
  2. 採用・定着競争の激化
    賃金水準の高い企業に人材が流れています。
    給与水準を上げないと「採用できない」「人が辞める」といった現象が発生しています。
  3. 生産性向上の必要性
    賃金を引き上げるだけでは経営が持続せず、「一人当たりの生産性」を上げることが不可欠な状況に。

採用難について

採用難の背景

  1. 労働人口の減少
    日本の生産年齢人口(15~64 歳)は 1995 年をピークに減少を続けている。
    厚生労働省の推計では、2050年には現在より 1,000万人以上減少する見込みです。
  2. 働き方や価値観の変化
    若年層は「給与」よりも「やりがい」「柔軟性」「ワークライフバランス」を重視。
    終身雇用や⾧時間労働は敬遠される傾向にあります。
    「転職は当たり前」という意識が浸透し、定着が難しくなっています。
  3. 地域格差と中小企業は不利な状況に
    都市部に人材が集中し、地方の中小企業は採用がより困難です。
    大企業は高待遇や福利厚生で優位に立ち、中小企業は人材確保で不利な立場になっています。

採用難の現状

有効求人倍率は全国で1.2倍前後ですが、建設・介護・製造業など特定業種では 2倍超の地域もあります。
特に技能人材・専門人材・若手人材は慢性的な不足になっています。また、採用コストは上昇し、求人広告や紹介料が中小企業の大きな負担になっています。


出所:厚生労働省 第35回労働政策基本部会事務局提出資料

物価高、賃金高、採用難の状況だと、今後さらに人・もの・金といった経営資源が獲得しにくくなる状況にあります。

特に経営資源が限られている中小企業は上記の状況を生き抜くには、従来のコスト削減や営業を強化するなどといった過去の延長のままでは生き残るのはかなり厳しいと言わざるを得ません。

けれど、打開策がないわけではありません。
高付加価値の商品・サービスに絞り込み、人員もコアな業務に集中させることが一つの解決策になると考えます。


出所:筆者作成

最近は、DX化やアウトソーシングなど様々な経営資源を自動化や外注化などコア業務に集中できる環境が整いつつあります。
充実したラインナップを用意することや大量販売を前提とした低価格や中価格の商品・サービス販売は中堅企業、大企業に任せて、経営資源の限られる中小企業は強みを生かし、少ない資源を活用し高付加価値商品・サービスに経営資源を集中していくべきと考えます。

そして、そのような高付加価値かつコンパクトな経営を行うには抜本的な経営改革が不可欠です。そのような変革を行うためには設計図となる経営計画が必須となります。

物価高、賃金高、採用難に対応した高付加価値かつコンパクトな経営行うためには3つの柱を軸とした経営計画の策定をお勧めしています。

経営計画の3の柱


出所:筆者作成

①付加価値増加を行い、利益を確保する。その利益によりDXなどに投資し②の業務効率化を行う。そして、中核社員の賃上げや福利厚生の充実などを行い③従業員を大切にする経営を実践することにより少ない人数で高付加価値経営を実現していきます。

各項目の具体的な実施例についてみていきます。

①付加価値増加
付加価値は本コラムでは利益の確保と定義します。利益確保の取り組みとしては下記があげられます。

  1. 価格戦略の再設計
    ・「コスト+利益」ではなく「価値ベース」で価格を設定
    ・値上げの実施。値上げ時は「原価上昇の説明」+「付加価値の提示」をセットで伝える
    ・単品値上げではなく、セット販売やサービス付加で「納得感」を演出する
  2. 原価管理と粗利の徹底
    ・製品サービスごとに利益率を可視化し、赤字商品を洗い出し、取り扱いを中止する。
    ・利益率の低い商品は価格改定や販売縮小を検討
    ・サプライヤーとの契約条件を再交渉(数量・納期・支払条件)
  3. コスト構造の改善
    ・固定費の見直しをし無駄な経費の削減を行う
    ・省エネ設備の導入でエネルギー費削減
    ・購買の共同化や取引先の多様化で仕入れリスクを低減
  4. 補助金・助成金の活用
    ・物価高、賃金高に対応するために多くの補助金が設定されています
    ・省力化投資補助金:エネルギー効率改善や自動化投資に利用可能
    ・業務改善助成金:生産性向上に資する設備投資等を助成するもの

②業務効率化
物価高・賃金高への対応として業務効率化が有効です。また、デジタル化の進展やアウトソーシングの充実により業務効率化がしやすくなっています。
業務の効率化により少ないコストで業務が遂行でき、さらに少ない人数で事業が遂行できるようになります。

業務効率化の基本アプローチは下記のようになります。

  1. 可視化・見える化
    ・業務フロー図を描く → 誰がどこで何をしているか明確にする。
    ・工数分析 → 時間や人手がかかりすぎている業務を特定する。
    ・採算分析 → 製品・サービスごとに利益率を見える化する。
  2. 標準化・マニュアル化
    ・同じ業務でも担当者によってやり方が違うとムダやミスが発生します。
    ・手順書・チェックリストを整備し、「誰がやっても同じ成果」を出せる状態にします。
  3. デジタル化・自動化
    ・会計・給与・請求書発行 → クラウド会計・クラウド人事で自動化する。
    ・在庫・発注管理 → IoTやクラウド在庫管理システムでリアルタイム化する。
    ・顧客対応 → チャットボットやCRMツールで効率化する。
  4. アウトソーシング・外部連携
    ・自社の社員はコア業務に集中しより少ない社員で会社を運営できるようにする。
    ・経理や給与計算、採用事務などは外部専門家に委託
    ・物流や配送を外注化する。
    ・地域の同業者と共同購買や共同配送を実施する。

③人を大切にする経営
業務効率化により残ったコア社員についてはワンチームとして会社に定着し、長く働いてもらう必要があります。
会社の理念や経営計画の共有などを行いワンチームとしての認識を持ってもらいます。
付加価値の増加や業務効率化により確保した利益でしっかりとした待遇や、福利厚生の充実を行うことが不可欠です。

  1. ビジョン共有の施策
    ・共有によって「この会社の一員である」という所属意識が生まれ、定着率やモチベーションの向上につながります。
    ・経営理念や将来像を明文化
    ・経営者が定期的に語る場を設ける
    ・社内イベントや社内報で「ビジョンと日常業務」を結びつける
  2. 経営計画の共有施策
    ・中期計画を社員に開示
    ・計画策定プロセスに社員を巻き込む
    ・売上・利益・粗利などの基本指標を定期的に共有
  3. コミュニケーション強化
    ・定期的な1on1面談を行い、キャリアや悩みを共有
    ・社内イベントや表彰制度で「感謝」を伝える文化をつくる
    ・経営者が現場に足を運び、声を直接聴く
  4. 福利厚生の充実
    ・資格取得支援、健康診断や予防接種費用補助
    ・社員食堂やランチ補助、リフレッシュ休暇制度
    ・ライフステージに応じた支援(育児・介護制度

経営計画の重要性

高付加価値かつコンパクトな経営を行うための施策を紹介していきましたが、会社の抜本的な改革を伴うものになります。プロジェクトは複雑で長期間に及ぶことになります。
ワンチームとして経営を果たしていくには計画や経営方針を従業員にもしっかり伝えていくことが必要になります。
そのためには、考えていることを言語化しコア社員と共有していくツールとして経営計画の重要となります。経営計画を軸としてコミュニケーションを行うことにより円滑な経営が実現できることでしょう。

専門家の活用

経営計画を策定するにあたり専門家を活用したほうが実現の可能性はあがります。考える項目が多岐にわたること、長期にわたるプロジェクトになるため自社だけでは途中で頓挫してしまう可能性があります。
また、提案した施策が個別の事情によって当てはまらないことも多くあるでしょう。
そうした状況を考慮すると外部の専門家をいれて客観的な評価やアドバイスを受けること、また緊張感をもって行うことが大事になります。

終わりに

今回の記事は物価高、賃金高、採用難に対する1つの対応策になります。
最近の若手経営者が多く採用している、少人数でITやアウトソーシングを駆使した経営手法になります。IT関係に多いですが、考えの方向性としては十分に参考にできると考えています。
近年ではAIが発達して、1人ユニコーンが誕生するかもしれないといわれるほど経営手法は変わってきています。
今の物価高、賃金高、採用難の状況を利用して経営方法を大きく見直す時期にきていると思います。
最低賃金については政府が1500円を目標にしていると公言しているので、今後も上がっていくことが確実でしょう。
体力に余裕のある今のうちに対策を打っていくことをお勧めします。

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